大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成10年(行ケ)299号 判決

東京都新宿区百人町1丁目10番7号一番街ビル

特許管理士会内

原告

西東昌一

訴訟代理人弁護士

大野幹憲

塩谷崇之

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 伊佐山建志

指定代理人

能條佑敬

小林和男

廣田米男

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

特許庁が昭和63年審判第8188号事件について、平成10年7月24日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文と同旨

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

訴外社団法人発明学会(以下「本件学会」という。)は、昭和58年12月20日、別添審決書写し別紙記載のとおり、「特許管理士会」の漢字を横書きしてなる商標(以下「本願商標」という。)につき、指定商品を第26類「書籍、雑誌、その他本類に属する商品」(平成3年政令第299号による改正前の商標法施行令別表による。)として商標登録出願をした(商願昭58-120097号)が、昭和63年1月27日に拒絶査定を受けたので、同年4月25日、これに対する不服の審判請求をした。

上記発明学会は、昭和60年12月20日、権利能力なき社団である訴外特許管理士会(以下「本件団体」という。)の管理人である訴外古川美智子に対し、本願商標についての登録を受ける権利を譲渡し、昭和61年1月13日、その旨を被告に届け出た。さらに、上記古川美智子は、本件団体の管理人の変更に伴い、平成5年7月15日、新しい管理人である原告に対し上記権利を譲渡し、同月16日、その旨を被告に届け出た。

特許庁は、上記請求を昭和63年審判第8188号事件として審理したうえ、平成10年7月24日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年8月22日、原告に送達された。

2  審決の理由

審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願商標が、「弁理士」と紛らわしい「特許管理士」の語を構成の主要部とし、「弁理士会」と紛らわしい「特許管理士会」の語よりなるものであるから、その指定する商品に使用することは、特許制度の利用者である一般の国民が特許管理などの専門家である弁理士及び弁理士を会員とする弁理士会に寄せる信頼を害することになり、社会公共の利益に反するとして、商標法4条1項7号に該当するとしたものである。

第3  原告主張の取消事由の要点

審決の理由中、本願商標についての判断、審判手続における原告(請求人)の主張内容、弁理士の資格・業務内容及び弁理士会の設置目的等についての判断、「名称の末尾に『士』の文字を付けたものは、法律が資格要件を定めている名称として前記『弁理士』の外、弁護士法の定める『弁護士』、公認会計士法の定める『公認会計士』など多数存在している」(審決書6頁12~15行)との判断並びに「『特許管理士』が実用新案登録出願を代行し報酬を受け取るなど業として出願代行業務を行ったとして東京地検が弁理士法違反で略式起訴した旨報道され」(同7頁5~7行)たことは、いずれも認めるが、その余は争う。

審決は、本願商標が、誤って公の秩序を乱し善良な風俗を害するおそれがあると判断しているので、違法として取り消されるべきである。

1  「特許管理」の用語について

「特許管理」の用語の沿革について見ると、昭和32年に財団法人日本生産性本部から「特許管理専門視察団」が欧米に派遣され、欧米において実現されていた産業における「特許管理」の姿を調査報告しており(甲第2号証)、また、特許制度に関心の深い我が国の各産業分野の企業で組織されている日本特許協会では、特許管理の重要性に鑑み、昭和32年1月から平成6年4月までの30年以上にわたって、「特許管理」と題する定期刊行物を発行してきた。

そして、昭和41年10月には、有斐閣から「特許管理」と題する書籍(甲第5号証)が刊行され、同書によれば、特許管理には、広義の「特許業務について一定の政策・具体的実施計画を作成し、これに適合するように社内全般の特許問題に対する姿勢を整えること」という意味と、狭義の「特許部、特許課などの専任担当機関によって日常処理される特許業務」という意味があり、狭義の特許管理に含まれる事項の一部は、社外の練達した専門家(例えば、弁理士)の手に委ねることが可能だが、広義の場合には、性質上これを他人に託することができず、この意味において、広義の特許管理こそ特許管理の本体をなすとされる。

このように「特許管理」の用語は、企業において、本願商標の登録査定時に一般的なものであり、そこでのテーマは「企業においてどのような視点に立って、この特許制度を利用し、技術開発を押し進め、効率的な特許管理を行っていけばよいのか」なのである。そして、「特許管理」の概念は、このような客観的、かつ、通常人が理解している概念に基づくべきであり、弁理士法等の特殊な条文の援用によるものではないのである。

2  弁理士のみがなし得る業務について

審決は、「弁理士のみがなしうる業務は、特許管理の概念に包含されるものである。」(審決書6頁3~4行)と認定するが誤りである。

すなわち、前記のとおり、特許管理の概念は相当広く、「弁理士がなしうる業務」を包含するとしても、「弁理士のみがなしうる業務」を包含するとはいえない。例えば、特許管理の重要な一つである出願行為について、出願手続の範囲での代理権が弁理士のみに認められるとしても、企業本人がその名をもって自ら出願できるのであるから、出願手続の範囲ですら「弁理士のみがなしうる業務」ということはできないのである。

3  「特許管理人」の用語について

審決は、特許法に「特許管理人」の用語があることを根拠として、特許に関する手続が「特許管理」の一つとするとしている(審決書6頁10~11行)ところ、「特許管理」の概念の中に「特許に関する手続」が含まれることは認めるが、「特許管理人」の用語をその根拠とすることはできない。

すなわち、特許法8条で定める「特許管理人」の名称は、極めて限定された特殊な概念であって、前述した広い概念である「特許管理」を行う人ではなく、特許庁等の行政庁に対する「特許」に関して、本人に代わる「管理人」以上の意味を見い出し難いから、「特許管理人」の概念は、前述した特許管理とは全く異なる特殊な概念である。

4  「士」の用語について

審決は、「名称の末尾に『士』の文字を付けたものは、・・・一般に法律の定める資格を有する者の名称と理解されるものである。」(審決書6頁12~16行)とするが誤りである。

すなわち、審決が、その根拠として例示する「弁理士」、「弁護士」及び「公認会計士」に関して、弁理士法、弁護士法及び公認会計士法のいずれについても、「士」という用語を使用してはならないとの規定はないし、一般の漢和辞典や法律辞典において、「士」の用語が、法律に定める資格を有する者の名称との意味は出てこない。また、一般的な使い方においても、「士」の付加されているものは、一般人又は凡人との対比において、より多く学問や知識、教養を身に付けている人と理解されている。さらに、民間資格において、「士」の付されたものは枚挙にいとまがなく、特許庁自身が、既に「士」を付した数多くの商標登録を認めている(甲第11号証)。

したがって、一般人は、「士」の文字が付されているからといって、「法律が資格要件を定めている名称」とは考えないのである。

5  「特許管理士会」について

本件学会は、昭和39年に客観試験を導入し、これに合格した者に「特許管理士」の称号を与える試みを開始し、同試験の合格者で構成する任意団体である本件団体が、「特許管理士会」の名称により、翌年の4月17日の第1回定時総会をもって発足した。その後、本件団体は、昭和42年から同47年まで本件学会にその運営を委託してきたが、同年以降は、再び独立して運営を行う一方、特許管理士試験自体も行うこととなった。そして、本件団体では、特許管理士試験の合格者に付与される「特許管理士」の資格称号について、1年間のみ有効とし、会則や登録規定を周知させるとともに、その活動が弁理士法違反とならないよう徹底している。

このように本件団体が管理してきた「特許管理士」及び「特許管理試験」は、33年間の長きにわたる歴史と実績を積み、企業関係者はもとより、特許関係の業務を望んで就職活動をする者や学生の間でも、極めて一般的な民間資格として受け入れられており、企業側からも高い評価を受けるに至っている。

6  「弁理士」と「特許管理士」との関係について

審決は、「本願商標構成中の『特許管理士』の語は、法律の定める正しい資格名称及びその業務内容の全てを具体的に認識していない一般の国民にとって、『法律の定めにより特許管理を業として行える資格を有する者』又は『弁理士法が定める弁理士の業務を業として行える者』の意を想起、連想させるものであり、この意味において「弁理士」と相紛らわしいものである。」(審決書6頁17~23行)と認定するが誤りである。

すわなち、「弁理士」は国家資格であり、「特許管理士」は民間資格であるが、国家資格以外に民間資格が多数存在することは、国民にとって周知の事実であり、これを一般に混同するおそれはない。「特許管理士」の用語が、「弁理士」と類似する名称であるか否かは、称呼、観念、外観についての判断が必要である。また、「弁理士」のみに専属する業務分野は、本人(依頼者の95%は企業である。)からみて対外的な業務に限られ、本人の内部問題である特許管理については、「弁理士」のみに専属する業務分野ではなく、これを対象とする能力資格が、「特許管理士」であるから、両者は明確に区分がなされている。したがって、「弁理士」は本人の代理として登場するが、「特許管理士」は代理ではなく、専ら企業内部での連絡役及び外部者である弁理士との連絡役として登場する。

このように「弁理士」と「特許管理士」との間の観念の類似性はなく、それぞれの観念の独自性が既に確立されているのである。

7  「特許管理士」の犯罪について

審決は、昭和50年10月12日付け毎日新聞(本訴乙第5号証の1、審決甲第3号証)の「記事からすれば、『特許管理士』の肩書きを使用する者を弁理士と同等の資格を有する者と誤認する者が多数いると推認される」(審決書7頁7~10行)とするが誤りである。

すなわち、審決指摘の記事の事件(以下「本件事件」という。)において、事件本人は、「特許管理士」だから弁理士法違反となったのではなく、「弁理士でなかった」から処罰されたのである。そして、本件団体では、同人を除名処分とすると同時に、弁理士法違反を犯すことのないよう会員に周知徹底しており、しかも、同事件は、23年も昔のことであるから、この唯一の事件に基づいて、「特許管理士」の肩書きを使用する者を弁理士と同等の資格を有する者と誤認する者が多数いると推認することはできない。

8  「本願商標」と「公序良俗」違反の有無について

審決は、「本願商標は、『特許管理士』を会員とする団体を認識させ、ひいては『弁理士会』と同一の機能を有する社団を想起させるものである。そうすると、本願商標をその指定商品『書籍、雑誌、その他本類に属する商品』に使用するときは、該商品は、取引者・需要者に、弁理士会又は実質的にその会員である弁理士が取り扱っているかのような印象を与えるというべきである。」(審決書7頁17~23行)とするが誤りである。

すなわち、前述した「特許管理士会」の沿革等を考慮すれば、「特許管理士」を会員とする団体を認識させる本願商標と、弁理士を会員とする「弁理士会」とは、全く異なる団体であって、両者を混同することも、前者から後者と同一の機能を有する社団を想起させることもない。また、前述した弁理士の業務と特許管理の意義を考慮すれば、本願商標を指定商品に使用したとしても、一般国民の弁理士に寄せる信頼を害することは全くないのである。

第4  被告の反論の要点

審決の認定判断は正当であり、原告の主張はいずれも理由がない。ただし、「特許管理」の語についての原告の主張は争わない。

1  原告は、審決が、特許管理といわれている業務のうち、出願手続の段階は、あたかも弁理士のみが占有する業務部分であると述べたかのように主張するが、そのような指摘をしたわけではなく、審決は、弁理士法22条の3の規定等からみて、弁理士と紛らわしい特許管理士の名称を用いることが問題であるとしたものである。

したがって、この点に関する審決の認定(審決書6頁3~4行)に誤りはない。

2  原告は、特許法8条で定める「特許管理人」の名称は、極めて限定されて特殊な概念であり、特許管理の概念とは全く異なると主張するが、審決では、特許管理の広い概念の中に、法律が定める特許管理人の権限範囲が含まれるとしているだけであるから、この点に関する審決の認定(審決書6頁10~11行)に誤りはない。

3  原告は、「士」の用語について、一般に法律に定める資格を有する者の名称との意味は出てこず、一般人又は凡人との対比において、より多く学問や知識、教養を身に付けている人を呼ぶものである旨主張する。

しかし、一般的な辞書(乙第1~第4号証)によれば、「士」の用語は、「特別な資格・職業の人」、「一定の資格を持った者」等とされ、その用例として、「弁護士」、「公認会計士」、「栄養士」及び「学士」等が示されている。また、「士」の用語は、国家資格が多数、長期に存在し、その資格者による社会への貢献度から、社会的認知度が高いものといえるから、一般に法律に定める資格を有する者の名称と解されるのである。

したがって、この点に関する審決の認定(審決書6頁12~16行)に誤りはない。

4  原告は、特許管理士が、一般的な資格として受け入れられていると主張し、証拠(甲第32~第36号証)を提出するが、これらの証拠は客観的な資料とはいえず、特許管理士が高い評価を受けているとはいえないものである。

5  原告は、「特許管理士」の用語が、「弁理士」と類似する名称であるか否かは、称呼、観念、外観についての判断が必要であると主張する。

しかし、弁理士法22条の3で規定する「弁理士と類似する名称」とは、その名称が、弁理士のみがなし得る業務であると一般国民に誤認せしめるようなものであれば、類似名称といえるものである。

また、原告は、特許管理士が、弁理士と異なり、企業内部の連絡役として登場すると主張するが、そこで弁理士が行う業務を行い、特許管理士との資格を保有していることを意思表示するのであれば、特許管理士との名の下に行う行為そのものが、弁理士との混同を生じさせる原因となるものである。

審決は、以上のような観点から「弁理士」と「特許管理士」の類似性を認定した(審決書6頁17~23行)ものであるから誤りはない。

6  原告は、本件事件が、23年も昔のことであると主張するが、同種の事件は他にも存在する(乙第5号証の2~4)し、本件事件の当事者は、その後も再度同様の事件を起こしている(乙第6、第7号証)。

このことは、本件団体が、いかに弁理士業務を行わないよう指導しても、特許管理士という名称で行う業務において、混同を生じさせるものであるが故に、そのことを積極的に悪用する者が現実に存在したこと、あるいは、悪意はないにしても、特許管理士という名称で同じ業務を行うことにより、結果として弁理士の業務と誤認を生じさせてしまうことを意味するものといわなければならない。

したがって、この点に関する審決の認定(審決書7頁7~10行)に誤りはない。

7  以上のとおり、「特許管理士会」は、「弁理士会」と同じ機能の社団を想起させるものであるから、この点に関する審決の認定(審決書7頁17~23行)に誤りはない。

第5  当裁判所の判断

1  本願商標が、別添審決書写し別紙記載のとおり、「特許管理士会」の漢字を横書きしてなり、これは、「『特許管理士』の文字に団体の名称を表すものとして広く使用されている「会」の文字を結合させてなる商標」(審決書5頁14~16行)であること、「特許管理」の語が、特許を管理するという広い概念を有するものであることは、いずれも当事者間に争いがない。

2  弁理士法22条の2第1項は、「弁理士ニ非サル者ハ報酬ヲ得ル目的ヲ以テ特許、実用新案、意匠若ハ商標若ハ国際出願ニ関シ特許庁ニ対シ為スベキ事項若ハ特許、実用新案、意匠若ハ商標ニ関スル異議申立若ハ裁定ニ関シ通商産業大臣ニ対シ為スベキ事項ノ代理又ハ此等ノ事項ニ関スル鑑定若ハ書類若ハ電磁的記録(電子的方式、磁気的方式其他人ノ知覚ヲ以テ認識スルコト能ハザル方式ニ依リ作ラルル記録ヲ謂フ次項ニ於テ亦同ジ)ノ作成ヲ為スヲ業トスルコトヲ得ス」と規定し、弁理士以外の者が、報酬を得る目的をもって上記特許等に関する出願や異議申立て等を行うことを禁止しており、報酬を目的とするこれらの行為が、前示のとおり、特許を管理するという広範な意味合いを有する「特許管理」の概念に含まれるものであることは、明らかといわなければならない。

したがって、審決が、「弁理士のみがなしうる業務は、特許管理の概念に包含されるものである。」(審決書6頁3~4行)と認定したことに誤りはない。

原告は、特許管理の概念が、「弁理士がなしうる業務」を包含するとしても、「弁理士のみがなしうる業務」を包含するとはいえないとして、例えば、出願行為について、企業本人がその名をもって自ら出願できるのであるから、「弁理士のみがなしうる業務」ということはできないと主張する。

しかしながら、審決が、一般の出願行為等を「弁理士のみがなしうる業務」と認定したわけではないから、原告の上記主張は、審決の前記認定を曲解したものと思われ、失当と認められるところ、前記の特許等に関する出願や異議申立て等を行うことは、一般の出願人やその代理人であれば当然なし得る行為であり、また、報酬を得ることを目的としてこれらの行為を行うことは、「弁理士のみがなしうる業務」に該当するが、これらはいずれも広範な意味合いを有する「特許管理」の概念に含まれるものであるから、いずれにしても、上記主張を採用する余地はない。

3  特許法8条は、在外者の特許に関する代理人である「特許管理人」の権限内容等を定めるものであるところ、特許管理人が在外者の代理人として行う特許に関する手続が、広範な意味合いを有する「特許管理」の概念に含まれるものであることも明らかである。

したがって、審決が、「特許管理人」に関する規定を根拠として、特許に関する手続が「特許管理」の一つとしている(審決書6頁10~11行)と認定したことに誤りはない。

原告は、「特許管理」の概念の中に「特許に関する手続」が含まれることは認めながら、「特許管理人」が、特許管理の概念とは全く異なる特殊な概念であるから、その根拠とすることはできないと主張する。

原告の上記主張は、必ずしも明確ではないが、仮に、「特許管理人」が、特許法上限定された概念であるとしても、これが「特許管理」の概念に含まれることは、前示のとおりであるし、一般的な「特許に関する手続」が「特許管理」に含まれることも明らかであるから、いずれにしても原告の上記主張は、失当といわなければならない。

4  「名称の末尾に『士』の文字を付けたものは、法律が資格要件を定めている名称として前記『弁理士』の外、弁護士法の定める『弁護士』、公認会計士法の定める『公認会計士』など多数存在している」(審決書6頁12~15行)ことは、当事者間に争いがない。

また、通常の国語辞典及び漢和辞典(乙第1~第4号証、甲第9号証)によれば、末尾に「士」の付された用語は、「特別な資格・職業の人」、「一定の資格を持った者」、「専門の仕事を持つ人。その資格を持つ人」等の意味を有するものとされ、その用例として、「弁護士」、「公認会計士」、「代議士」、「栄養士」及び「学士」等が示されている。

そうすると、一般の国民は、末尾に「士」の付された名称について、上記例示からも顕著なように、国家が法律に基づいてその資格を特別に付与した者を表示しているものと理解する場合が多いことは、明らかといわなければならず、「特許管理士」の語からは、「特許を管理することのできる一定の資格を有する者」との意味合いを想起することができるものと認められる。

原告は、「士」の用語が、一般に法律に定める資格を有する者の名称との意味は出てこないし、一般的な使い方においても、「士」の付加されているものは、一般人又は凡人との対比において、より多く学問や知識、教養を身に付けている人と理解されており、民間資格においても「士」の付されたものが多数存在し、特許庁自身が「士」を付した数多くの商標登録を認めていると主張する。

たしかに、「士」の文字が付されて名称が、常に法律上の根拠を有する資格のみを表示するものでないことは、社会通念上、否定することができないところであるが、より一般的には、前示のとおり、法律が一定の資格要件を定めている名称と理解されていると認められ、このことは、「特許管理士」以外に「士」を付した名称が商標登録された事例が存することにより左右されるものではないから、原告の上記主張を採用することはできない。

そうすると、審決が、「名称の末尾に『士』の文字を付けたものは、・・・一般に法律の定める資格を有する者の名称と理解されるものである。」(審決書6頁12~16行)と認定したことに誤りはない。

5  以上のとおり、「特許管理」の語が、特許を管理するという広範な意味合いを有し、報酬を得ることを目的として特許等に関する出願や異議申立て等を行うという「弁理士のみがなしうる業務」もこれに含まれること、特許法8条が、在外者の特許に関する代理人である「特許管理人」の権限内容等を定め、この特許管理人が行う特許に関する手続が「特許管理」の概念に含まれること、「特許管理士」の語から「特許を管理することのできる一定の資格を有する者」との意味合いを想起できること、さらに、前記弁理士法22条の2の規定の趣旨及び同法22条の3が「弁理士ニ非サル者ハ利益ヲ得ル目的ヲ以テ弁理士、特許事務所其ノ他之ニ類似スル名称ヲ使用スルコトヲ得ス」と規定し、弁理士以外の者が、利益を得る目的をもって弁理士及びこれに類似する名称を使用することを禁止している趣旨等を総合的に勘案すると、審決が、「本願商標構成中の『特許管理士』の語は、法律の定める正しい資格名称及びその業務内容の全てを具体的に認識していない一般の国民にとって、『法律の定めにより特許管理を業として行える資格を有する者』又は『弁理士法が定める弁理士の業務を業として行える者』の意を想起、連想させるものであり、この意味において「弁理士」と相紛らわしいものである。」(審決書6頁17~23行)と判断したことは、正当といわなければならない。

6  原告は、「特許管理士」の用語が、「弁理士」と類似する名称であるか否かは、称呼、観念、外観についての判断が必要であると主張する。

しかし、弁理士法22条の3で規定する「弁理士と類似する名称」とは、商標における一般の類否判断の場合とは異なり、特許等の制度の利用者である一般の国民にとって、当該名称が、弁理士のみがなし得る業務を行う者であると誤認するようなものであるか否かを基準として、決定すべきものであるから、上記主張は失当である。そして、一般の国民にとって、「特許管理士」が「弁理士」と類似する名称であることは、前示のとおりである。

また、原告は、本件団体が歴史と実績を積み、その結果、「特許管理士」が、一般的な民間資格として受け入れられており、弁理士と明確に異なる企業内部の連絡役として登場すると主張する。

しかし、本件団体が管理する「特許管理士」の業務が、仮に、企業内部の連絡役を主とするものであるとしても、一般の国民にとっては、前示のとおり、そのように限定されたものとは認識されず、一般的に「弁理士」と相紛らわしいものと理解される以上、特許管理士の名称において行う行為が、弁理士との混同を生じさせることは避けられず、上記主張を採用する余地はない。

7  昭和50年10月12日付け毎日新聞(本訴乙第5号証の1、審決甲第3号証)の記事によれば、「『特許管理士』が実用新案登録出願を代行し報酬を受け取るなど業として出願代行業務を行ったとして東京地検が弁理士法違反で略式起訴した旨報道され」(審決書7頁5~7行)たことは、当事者間に争いがない。

原告は、本件事件において、事件本人が「特許管理士」だから弁理士法違反となったのではなく、「弁理士でなかった」から処罰されたのであり、同事件は、23年も昔のことであるから、この唯一の事件に基づいて、「特許管理士」の肩書きを使用する者を弁理士と同等の資格を有する者と誤認する者が多数いると推認することはできないと主張する。

しかしながら、平成8年9月18日付けの沖縄タイムスの記事(乙第5号証の2)によれば、資格なく特許申請を行い弁理士法違反で摘発された事件に関して、「民間資格の『特許管理士』という肩書で、申請手続きを代行していた」旨が記載されているから、本件事件以外の事件によっても、一般の取引者・需要者において、「特許管理士」の肩書きを使用する者を弁理士と同等の資格を有する者と誤認するおそれがある者が存在することが明らかであり、原告の上記主張は、到底採用することができない。

したがって、審決が、本件事件に基づいて、「『特許管理士』の肩書きを使用する者を弁理士と同等の資格を有する者と誤認する者が多数いると推認される」(審決書7頁7~10行)と認定したことに誤りはない。

8  以上のことを総合すると、審決が、「本願商標は、『特許管理士』を会員とする団体を認識させ、ひいては「弁理士会』と同一の機能を有する社団を想起させるものである。そうすると、本願商標をその指定商品『書籍、雑誌、その他本類に属する商品』に使用するときは、該商品は、取引者・需要者に、弁理士会又は実質的にその会員である弁理士が取り扱っているかのような印象を与えるというべきである。」(審決書7頁17~23行)、「本願商標は、『弁理士』と紛らわしい『特許管理士』の語を構成の主要部とし、『弁理士会』と紛らわしい『特許管理士会』の語よりなるものであるから、その指定する商品に使用することは、特許制度の利用者である一般の国民が特許管理などの専門家である弁理士及び弁理士を会員とする弁理士会に寄せる信頼を害することになり、社会公共の利益に反するものである。」(同8頁2~8行)と認定したことに、いずれも誤りがない。

9  したがって、原告主張の取消事由は理由がなく、審決の認定判断は正当であって、他に審決を取り消すべき瑕疵はない。

よって、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中康久 裁判官 石原直樹 裁判官 清水節)

昭和63年審判第8188号

審決

東京都新宿区百人町1-10-7 一番街ビル 特許管理士会内

請求人 西東昌一

昭和58年 商標登録願 第120097号拒絶査定に対する審判事件について、次のとおり審決する。

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

理由

1 本願商標

本願商標は、別紙記載のとおり「特許管理士会」の文字を横書きしてなり、第26類「書籍、雑誌、その他本類に属する商品」を指定商品として、昭和58年12月20日に登録出願されたものである。

2 原査定の理由

原審は、登録異議の申立てがあった結果、本願商標が商標法第4条第1項第7号に該当するとして、本願について拒絶すべき旨の査定をしたものである。

3 請求人の主張

請求人は、「原査定を取り消す。この出願の商標は、これを登録すべきものとする。」との審決を求め、その理由を次のとおり主張している。

(1) 本願商標を構成する「特許管理士会」の文字が「特許を管理する業務をなす者の団体の名称」を表示したものと理解せしめるものであるところ、該名称は、法律等によってその使用に一定の規制が設けられている名称に該当するものではなく、また、該文字自体が、矯激な文字や卑猥な図形等の表現を伴うものでないことは明らかである。

(2) 一方において、工業所有権の手続きの代理、鑑定等を業務とする「弁理士」及びその団体である「弁理士会」が、法律によってそれぞれ国家資格、法人格を有し、社会に定着していることに異論はないが、本願商標をその指定商品、例えば「印刷物」について使用したとしても、本願商標からは「特許管理士会」以外の団体が発行したものと看取されることはないから、取引者、需要者に直ちに国が「特許管理士」という制度を新たに設けたと誤認を生じさせたり、該印刷物が弁理士会によって発行されたものと誤認させるなど社会の流通秩序を乱すものとは思料し難い。

(3) 原査定においては、特許法第8条で在外者の特許管理人を定めてあることと相俟って誤認を生ぜしめると言うが、〈1〉「特許管理人」という名称と「特許管理士会」という団体の名称は、同法において「特許管理人」の法人格ないし団体としての人格を規定していないので、互いに誤認、混同を生ぜしめるとは言い難く、〈2〉「特許管理人」とは日本国内に住所又は居所を有しない者が我が国において工業所有権等の手続きをする際に該手続きを代理するものであって、この「特許管理人」と法文上定められた者はその名称をもって取引を行うのが実情であって、外国人等が、「特許管理人」と「特許管理士会」という文字及びその名称を該手続きの代理と商品としての印刷物における使用という互いに相容れない流通ルートにおいて、両者を誤認、混同して取引にあたるとはとうてい想到し得ない。

(4) 公序良俗に関する審判決例、例えば、昭和37年抗告審判第1236号は、財団法人主婦会館が旧66類図書、写真、及び印刷物に「全国主婦会館」の商標を使用しても公序良俗に反しないとしており、同53年審判第14766号は、出願人らが「日本冷凍食品管理士会」の商標を、第25類紙類、文房具類に使用しても、公序良俗を害するおそれはないとしている。他方、同55年(行ケ)第95号判決をはじめとする「特許建築学博士」等一連の判決は、「博士」という学校教育法に定められた正規の名称をその標章の構成文字に含有するが故に明らかに公序良俗を害する恐れがあるとされたが、これらを考慮しても、本願商標が「特許」、「特許管理」又は「特許管理士」の文字を含むことをもって、その指定商品への使用によって社会の秩序を乱し、善良の風俗を害するおそれがあるとは認め難い。

(5) 本願商標中の「特許管理士」については、早くから民間資格として創設され、そのための資格試験は、昭和39年より毎年行われ、同47年にはその団体たる「特許管理士会」が正式に発足し、現在では年2回実施される資格試験を通して、登録会員は約6300名にのぼり、当初より延べ人数で約15000名が該資格を帯びてきた。

「特許管理士」の資格名称の周知をはかるため、「特許管理士のすべて」(ダイヤモンド社刊)が昭和53年の初版より昭和60年までに実に16度にわたる版を重ね、資格試験に向けた「特許管理士に合格する本」(日本法令刊)も昭和58年の初版より同62年までの4年弱のわずかな期間に12度版を重ね、出版物を通じた方法のみをとっても、「特許管理士」の名称は、「弁護士」や「弁理士」等と相紛れることなく、現在は広く社会一般に知られている。

工業所有権についての高度の専門的知識を必要とし、報酬を得る目的をもって手続きの代行をすることを業務とする「弁理士」と、各企業や個人において、工業所有権に関する基本的知識をもとに特許管理の一助として、また、弁理士の業務を助けて工業所有権の手続き等に関する知識を普及せしめる役割を担う「特許管理士」とが相異なるということは、高度の専門的知識の修養でなく、初歩的、入門的な知識の養成という目的をもって多くの企業が新人研修などの内容の中に、特許管理士の資格取得のためのゼミナールを導入している事実に徴すれば、より明らかである。

叙上の諸点からしてみれば、本願商標をその指定商品につき使用しても、何らその登録を拒絶する程度にまで社会公共の利益に反し、善良の風俗を害するおそれを招来させるものと解することはできない。

4 当審の判断

本願商標は、別紙記載のとおり「特許管理士会」の文字を横書きしてなるところ、これは「特許管理士」の文字に団体の名称を表すものとして広く使用されている「会」の文字を結合させてなる商標と認められるものである。

ところで、弁理士法は、弁理士の業務について「弁理士ハ特許、実用新案、意匠若ハ商標又ハ国際出願ニ関シ特許庁ニ対シ為スベキ事項及特許、実用新案、意匠又ハ商標ニ関スル異議申立又ハ裁定ニ関シ通商産業大臣ニ対シ為スベキ事項ノ代理並ニ此等ノ事項ニ関スル鑑定其ノ他ノ事務ヲ行フコトヲ業トス」と規定し(第1条)、弁理士の資格は弁理士試験に合格するなど所定の条件を具える者が有する旨規定している(第2条及び第3条)。そして、同法は、弁理士でない者が、報酬を得る目的をもって上述した弁理士の業務を業として行えないこと(第22条ノ2)及び利益を得る目的をもって弁理士、特許事務所その他これに類似する名称を使用できないこと(第22条ノ3)を規定している。上記の弁理士のみがなしうる業務は、特許管理の概念に包含されるものである。また、特許法が、在外者の特許に関する代理人であって日本国内に住所又は居所を有するものを「特許管理人」と称し、在外者は特許管理人によらなければ特許に関する手続をし、同法又は同法に基く命令の規定により行政庁がした処分を不服として訴えを提起することができない旨規定している(第8条)ことからみると、特許法においても、特許に関する手続をもって「特許管理」の一としていることが窺える。さらに、○○士と名称の末尾に「士」の文字を付けたものは、法律が資格要件を定めている名称として前記「弁理士」の外、弁護士法の定める「弁護士」、公認会計士法の定める「公認会計士」など多数存在しているところから、一般に法律の定める資格を有する者の名称と理解されるものである。

これらのことからすれば、本願商標構成中の「特許管理士」の語は、法律の定める正しい資格名称及びその業務内容の全てを具体的に認識していない一般の国民にとって、「法律の定めにより特許管理を業として行える資格を有する者」又は「弁理士法が定める弁理士の業務を業として行える者」の意を想起、連想させるものであり、この意味において「弁理士」と相紛らわしいものである。

もっとも、この点について請求人は、「特許管理士」の名称が長年に亘りその資格試験を通じ民間資格として多数の者に付与されており、また出版物により普及されたので、現在「弁理士」などと相紛れることなく広く社会一般に知られている旨主張するが、例えば、原審において登録異議申立人が提出した昭和50年10月12日付け毎日新聞(甲第3号証)によれば、「特許管理士」が実用新案登録出願を代行し報酬を受け取るなど業として出願代行業務を行ったとして東京地検が弁理士法違反で略式起訴した旨報道されており、この記事からすれば、「特許管理士」の肩書きを使用する者を弁理士と同等の資格を有する者と誤認する者が多数いると推認されるから、この点についての請求人の主張は採用できない。

さらに、弁理士会は、弁理士法に基づき、弁理士の使命及び職責に鑑み弁理士の品位の保持及び弁理士業務の改善進歩を図るため弁理士の指導及び連絡に関する事務を行うことを目的として(第11条)、設立され(第10条)、政令の定めにより弁理士を会員とするものである(第12条ノ2、同法施行令第3章)。このことと「特許管理士」の語が弁理士に類似していることを併せ考慮すれば、本願商標は、「特許管理士」を会員とする団体を認識させ、ひいては「弁理士会」と同一の機能を有する社団を想起させるものである。

そうすると、本願商標をその指定商品「書籍、雑誌、その他本類に属する商品」に使用するときは、該商品は、取引者・需要者に、弁理士会又は実質的にその会員である弁理士が取り扱っているかのような印象を与えるというべきである。

したがって、弁理士法が弁理士に関しその資格、業務などを定める一方、弁理士会を設置して弁理士の品位を保持するなどの厳格な規定をして公共の福祉に適うよう弁理士制度を定めているところ、本願商標は、「弁理士」と紛らわしい「特許管理士」の語を構成の主要部とし、「弁理士会」と紛らわしい「特許管理士会」の語よりなるものであるから、その指定する商品に使用することは、特許制度の利用者である一般の国民が特許管理などの専門家である弁理士及び弁理士を会員とする弁理士会に寄せる信頼を害することとなり、社会公共の利益に反するものである。

なお、請求人は、公序良俗に関する審決例を挙げ、それらの例からすれば本願商標が社会の秩序を乱し善良の風俗を害するおそれはない旨主張するが、引用審決例は本件と事案を異にするものであるから本件審判事件の参考とするには適切でなく、この点に関する被請求人の主張は採用できない。

以上のとおり、本件商標が商標法第4条第1項第7号に該当するとしてなした原査定は、妥当であって、取り消すべき限りでない。

よって、結論のとおり審決する。

平成10年7月24日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

別紙

本願商標

〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例